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脚気が教えてくれる食の教え

明治初期、国の存亡を揺るがす栄養に関する大きな出来事がありました。

それは、海軍や陸軍で半数近くの兵士が脚気という神経の病気にかかり、このせいで軍隊が機能しなくなったというものです。特に1882年から翌年にかけて、海軍の軍艦がニュージーランド、ペルー、ハワイを航海したとき乗組員371名中半数近くが脚気にかかり、その中の25名が死亡したことは象徴的でした。

この時の海軍の高官たちは「わが海軍は脚気で滅亡する」と憂いたといわれています。当時海軍の軍医であった高木兼弘は、脚気の蔓延と兵士がとっている食事との関連性に注目しました。兵士の食事には、当時とても珍重されていた白米のご飯が提供されたのですが、パンを主食とするイギリスの軍隊では脚気の被害がみられなかったことから、白米を麦に変えることで脚気を防ぐことができるかもしれないと予測しました。

その仮説が正しいか確かめるために壮大な実験を行いました。それは、翌年、兵士の食事を白米ではなくパン中心に替えただけで、あとは軍艦に同じルートを辿らせるという実験です。そして、この軍艦がハワイに到着したときに、「ビョウシャイチニンモナシ　アンシンアレ」という電報を受け取ったのです。食事の変化でこれほどまでに好結果をもたらすとは信じがたいと、感激のあまり嗚咽を漏らしたとさえいわれています。

海軍はその後、白米を麦に変える食事を継続し、日清戦争でも劇的な効果を挙げ、脚気による死者をわずか3人に激減させることができました。その一方でｋの高木の実験を批判し、脚気は細菌によるものだという「脚気細菌因説」を支持していた森鴎外が軍医を務め、多くの死者を出しても食の改革に関心を持とうとしなかった陸軍では、日清戦争において脚気患者が4万人以上、死者は4000人にのぼったといいます。

かたや死者数千人の悲劇、かたや脚気の兵士さえわずかという奇跡。この驚くべき大差が生じた裏側には、米を麦に変えただけだという事実と、いかに食事と命が強く関係しているかを教えてくれている史実だと思います。